300字ss「写真」 2015.11.07
○ポートレイト○
クライアントは老舗の4代目。スリーピースで莞爾とほほえむ姿には、変な気負いも
照れもない。
「では撮ります」
作業を終えて暗室を出れば窓のそとは茜色。写真を片手にソファで一息。鮮やかな大判写真を視線の高さで持ち、息を吸いこめば――パリパリと写真の表面がはがれてゆく。
「ふむ」
口にひろがる深い味わいは、さすが老舗といったところ。
"写真を撮ると魂が抜かれる"
この噂は半分だけ正しい。写真には魂の欠片が移るのだ。
すぐさま体調に影響しないが、塵も積もればなんとやら。 被写体の人間たちは目減りする魂を自覚しているのだろうか?
(ま、楽できていいけどね)
やや色あせた写真に息を吹きかけると、きらめく欠片がふわりと舞った。
○from…○
家に帰って制服を脱いだらお線香の匂いがして泣きたくなった。
ガッコ帰りに事故ったなんてまだ信じられない。でも棺のなかの顔は擦り傷だらけで、横にはバキバキに壊れたスマホがあった。
棺に花を入れるとき、おばさんに頼んで自撮り棒を入れてもらった。遊びに出るときはいつも使ってた、派手なピンクの自撮り棒。
(燃やせば天国でも使えるでしょ?)
そんな風に思ったらまた涙が出てきた。
彼女の空白にもようやく慣れたある日、ヘンな写メが届いた。件名も本文も文字化けして読めない。恐る恐る画像を開けばひどく暗い写真。よくよく目を近づけて
「…ひっ」
思わず携帯を手放した。
床に落とした画面には、赤黒い肉塊にかこまれた――青白い笑顔。
○埋葬○
幼なじみのニナが死んだ。再資源省のリストにも名前があったから間違いない。
G番号を控え、仕事あがりに写真屋へ足を運ぶ。記憶から抽出したフォトカードには彼女の笑顔。
明日にでも弔いにいくとしよう。
郊外のGエリアはいつも閑散としている。
コンソールにカードを挿入、強化ガラスの向こうで自動機械が指定した番号の土に埋めるのを眺める。数日すれば織り込んだ種が芽吹くだろう。
ここにはいつも花が咲いている。色とりどりの花の下には同じ数のカードが…死者の笑顔が埋められているはずだ。
むかしは人が死ねば土に埋めて切った花を置いたらしい。
今からすれば非効率極まりないけど、人と花と、そういうのはあまり変わらないんだと思った。