モジモノノ

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300字ss「年の瀬」 2015.12.05

○わすれもの○

 はりきる母さんを筆頭に、今日は朝から大掃除。

 こんな日に部屋でゲームをしようもんなら殴られる。仕方なくダラダラと本棚を整理しはじめて一時間。
「…あ」
 棚の奥から出てきたのは借りたままのCD。パッケージには正面を向いたオオカミが5匹。
(あいつに布教されてハマったんだっけ?)
 そんな風に記憶をたぐれば一昨日の喧嘩も思い出した。学校は冬休みで、次に会うのは始業式。別にそれで構わない。年が明けたら喧嘩したことも忘れてるだろうし…

「掃除おわったの?」
 台所からの声を無視して外へ出る。駅前の鯛焼き屋はまだやってたはず。熱々の鯛焼きを土産にCDを返して、それから仲直りしよう。

 来年まで持ち越すには、この気持ちは重すぎる。


○門松○

「それではタクム、オタッシャで」
「…ケイトも」
「Thanks」
 そんな風に出国ロビーで言葉をかわしたのは数日前。
 ホームステイ中の一時帰国。年末を故郷のカナダで過ごし、日本に戻るのは年が明けてからだという。

 大晦日。朝から部屋の片づけをしていると彼女からのメールが届いた。
 件名は〔KADOMATSU〕。
 日本フリークの彼女のこと、きっと身近な素材で作ったんだろうと添付の写真を開けば、大きな家の前に飾られた立派な一対の門松――ただし木製。
(チェーンソーアートだっけ?)
 ヒゲ面の親父さんと一緒にこちらを向いて笑う彼女はとても楽しそうだった。

 ちなみに数時間後には、キャンプファイヤーよろしく燃える門松も送られてきた。
 件名は〔TAIMATSU〕だった。


○遺失物預り所 -歳末-○

 この時期、預り所の倉庫はにぎやかになる。
 迎春用品に歳末セールのお買い得品まで。忘れられた場所こそ違えど、こうして同じ柄の紙袋が並ぶと壮観だ。
「すいませーん、忘れ物ってここですかー?」
 受付には室内をのぞきこむコート姿の青年。
「しめ飾りなんです、これぐらいの」
と、両手でつくられた輪はなんとも微妙なサイズ。しめ飾りは大きさもデザインも似たものが多い。しかも倉庫には全く同じ飾りの入った紙袋が3つある。いやな予感を覚えつつ話を聞けば、干支の置物も買ったとのこと。

「ありがとうございました」
 紙袋を提げる後ろ姿にふと思う。受付わきに置いたデジタル時計の日付は31日。
 …最近は一夜飾りなんて気にしないんだろうか。


○年の瀬○

 そろそろ時間だと声をかけに行くと、支度もせずに彼女はつくねんと部屋の奥。
 こころの中でため息をひとつ。最近はいつもこうだ。決まって出立の前にしりごみする。自信に満ちた表情で颯爽と出かけた日はずいぶん遠い。身体が縮んでしまった分、こころも引きずられるんだろう。
「さ、姫様」
 正座して膝を叩けばのたのたと近寄ってくる。服を着せ替え、髪を梳いていると小さな声。
「待ってる人、いる?」
「大丈夫ですよ」
 笑みを返して被布の紐をむすぶ。さあ、急がないと。

 屋敷の前で待つ小舟に彼女を乗せれば、ようやく瞳から迷いの色は消えた。
 星を散りばめた水面をするすると舟がゆく。

 新たにめぐるはじまり日に、歳神を待ち望むうつし世へと――