モジモノノ

Twitterの過去つぶやきや300字ssなど文字モノのまとめ

300字ss「子」 2016.05.07

○かえる日○

 ゲコ丸はいつも南の砂浜で日向ぼっこをしてる。

 半透明のまるい体はランドセルぐらいの大きさで、撫でるとググッと鳴く。おばあに聞いたらずっと昔からこの島にいるらしい。

 ある日、学校帰りに海岸へいくと波打ち際で真っ白になったゲコ丸がいた。
 昨日海が荒れたから具合が悪いのかもしれない。あわてて両手ですくいあげるとぶるぶる震えて――花が咲くみたいにゲコ丸がてっぺんからほどけた。
「うわ!」
 まるい体いっぱいに詰まってたのはちいさなゲコ丸だった。半透明のかたまりはみるみる崩れて、ボチャボチャと海に落ちていく。

 浜辺が静かになったあと、手もとに残ったのはボロボロの白い皮だけ。その真ん中でちいさなゲコ丸がククッと鳴いた。


○先生の憂鬱○

 正解不正解、正解正解、不正解。
 テストの採点は単純作業だ。目と肩に疲労が溜まるが、よほどのことがない限りペースは崩さない。けれどそれを見た時はさすがに手が止まった。
 日本史の小テスト、問6の欄に大きく書かれていたのは――

 小野芋子

「んなわけあるか」
 思わず突っ込みながら回答者の名前を見て、ため息をつく。
(やっぱり中田か)
 脳裏に浮かぶのはへらりと笑う教え子の顔。授業態度は悪くないがテストでの妙な回答がやたら多い奴だ。一体どんな覚え方をしているのやら。
(俺、ちゃんと教えてるんだがなあ)
 妙なさみしさを覚えつつ赤ペンで不正解の印と「妹子」の字を書き込む。

 これを見て、正しい名前を覚えてくれるようにと願いながら。