300字ss「月」 2016.10.01
○月見の酒○
酒を土産におとずれた家の主はあいにくの不在。
窯出しだろうと思いながら、勝手知ったる人の家、庭に面した座敷の真ん中で月見酒としゃれこんだ。
夜風と梟の声をアテに何度か盃を空けたころ、のっそり帰ってきた家主は汗じみた作務衣のまま正面に座りこむ。頭に巻いた手拭いをはぐ彼に盃を渡せば、くっと一息に酒を干し、細い目を見開いた。
「旨いだろ? いい酒が入ればここで呑むと決めてるんだ」
口の端をあげ、「だけど今はお前がちょいと邪魔だ」と言葉を添える。呆れたようなため息をついて家主が身体を横にずらした。
「そんなにコレが好いか?」
「ああ、たまらんね」
床の間に飾られた白磁の大皿は、庭からの月影にほのあおい光を放っていた。