モジモノノ

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300字ss「氷」 2017.02.04

○けずりひ○

 武骨な機械のハンドルをまわし、硝子の器へ氷をつもらせる。はらはらと落ちる様が

雪に似ているせいか、店で氷を削るときはよく昔を思い出す。

 吹雪に閉ざされた祠の奥。目の前に差し出された人間の手のひら。黒い瞳はまっすぐこちらを見つめて――

「やっぱり裕さんがつくると綺麗だね」
 嬉しげな声で我に返ると、器につもった氷はいい具合。
 真っ赤なソースをまわしかけ、仕上げの吐息をひとつ。パシリとはった氷の膜はおいしくなれというまじないもこめて。
「ほら、さっさと持っていきなさい」
「うん」
 かき氷をトレイに乗せ客席へ向かう彼の背は、あれから少し伸びた。

 “僕は君といきたい”
 そう告げた声と眼差しの熱に目眩がしたのを今も覚えてる。



○冬の寵姫○

「ありゃなれの果てですよ」
 酒場の窓際でエールを舐めていた男が呟いた。外に向けていた視線を髭面にうつせば、頬をゆがめしゃがれた声で歌いだす。

 氷の城におわす冬の主は人の娘に恋をする
 見初められれば寒さなんてそよ風 吹雪はたえなる花の舞
 けれどこころは凍てついて――もはや人には戻れない 愚かな氷の生き人形

「だからね坊ちゃん、街中でアレを見つけても近づいちゃいけませんよ」
 酒臭い男の忠告にうなずきながらも視線は窓の外に誘われる。街を行き交う人々のあいだ、薄絹だけを身にまとい裸足で歩むのは冬に愛されたひとりの女。
 青白く透けるあの肌に触れてみたい。
 抗いがたい衝動は彼女の姿が雑踏にまぎれてしまうまで胸に凝っていた。




○今朝のイッピン○

「おはよう」
「はよ…ってなにそれ」
「氷」
「見りゃわかるって」
「今朝冷えるって言ってたからボウルに水はっといたんだ」
「どこの小学生だよ」
「でもキレイだろ?」
「まあな」
「ここしばらくで最高のデキなんだ」
「ってかいつもしてたのかよ」
「持ってみる?」
「あのな、おれ手袋してねーんだぞ」
「いいから、ほら」
「…つっべて、ダメだ返す!」
「えーもうちょっと持っててよ手袋絞るから」
「早くしろよみんな見てんだろーが」
「いいじゃん目立って」
「通学路で目立ちたくねえよ」
「仕方ないなー」

「あー冷たかった、指真っ赤だし」
「あとでカイロ貸すよ」
「サンキュー、ってかお前ソレ学校まで持ってくつもりか?」
「もちろん」
「小学生かよ」