300字ss「贈り物」 2017.12.02
○いとしいひと○
「新田さんマフラーとかこういうの使わないでしょ?」
腕の中にすっぽり納まった彼女が指すのは極暖コートのCM。
「自前のがあるからな」
「冬毛ふかふかだもんね。だからコレ」
細い指がつまんだ空のアンプルには細胞活性剤のラベル。
「ミヨちゃんまさか」
「さっき手で試したけど傷きれいに消えたよ」
「でも」
「ナイフで切っても痛くなくてね、逆に…」
消え入りそうな囁きも、早鐘のような鼓動もしっかりと耳が拾う。頬を染め、こちらを仰ぐ彼女の眼には一匹の狼。
「誕生日の贈り物、わたしじゃダメ?」
濡れた瞳が、震える吐息がひた隠しにしていた衝動を暴いていく。
(ああ畜生――)
返事のかわりに柔らかな身体を抱きしめ首筋に牙をつき立てた。
○乙女心と朴念仁○
ミヨリは悩んでいた。
この週末は付きあうようになって初めて迎える彼の誕生日。人間はこういうとき贈り物をするらしい。
(食べ物か? 着る物は勝手がわからんし卵は――いやいや流石にまだ早い)
3日ほど考えても答えは出ず、思い切って直接聞くことにした。
放課後の教室で坊主頭を撫でつつ水を向けると「おれ抜け殻がイイな!」と笑顔つきで返事がきた。
「抜け殻だと?」
「財布に入れるとお金が増えるって言うだろ?」
「きっとミヨリさんのだったらすげーパワーあると思うんだ!」なんて無垢な瞳で言うものだから「任せよ」と請け負ったが…
(なんだろうこの敗北感)
手帳の脱皮予定日に“一太に贈る”と書き込みながら蛇女はちょっとたそがれた。