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#twnovelまとめ 梅火鉢

【2015年2月8日のつぶやき】
一抱えほどもある染付の火鉢を、古道具屋の主人はいつも隣に置いている。のびのびと梅の枝が描かれたそれは客の目をひくようで、時折売ってくれと言われるそうだ。「いくら金を積まれても無理なんですよ」赤々と熾る炭を眺めながら「こいつは相棒みたいなもんなんで」どこか照れたように彼は呟いた。

 

「…相棒ねえ」「つきあいが長いのは本当だろ?」「まあ、あんたがおしめしてた頃から知ってますけど」「割られたいか」「あら怖い」「ったく…なあ、爺さんともこうやって喋ってたのか?」「付喪になったのはこないだですよ? それにあの人無口でしたから」「そっか」「やきもちですか?」「うるせ」


出物はないかと訪れた古道具屋では主人が火鉢に餅を乗せたところで。「おひとついかがです?」との言葉に甘え、古びた椅子に腰かけての世間話。実家にも老松の火鉢があったと伝えると「そりゃあさぞ立派なものだったんでしょうね」程よく焼けた餅を返しつつ主人が笑う。途端、風もないのに炭が爆ぜた。


「そりゃ、世間で松竹梅といやぁ松のが上ですけどね」「おい」「なにも目の前で言わなくったっていいじゃないですか」「…ったく、長年客商売してたんなら愛想ぐらい覚えろよ」「火鉢に愛想が必要なもんですか!っ」「あのなあ」「こんど同じことしたら、お餅、炭にしますからね!」「…わかったよ」


「おやご無沙汰です。毎日寒いですね」久々に訪れた古道具屋では、主人が火鉢の隣で懐こく笑う。手あぶり火鉢はないかと問えば、ほどなく戸棚から小さな火鉢を持ってきた。墨絵で南天が描かれたそれは初めて見るもので。「よいお年を」店先まで見送られて家路をゆく。…いい目利きをするようになった。


「…お爺さんの時からの常連さんですよね?」「ずっと気にかけてもらってる。ありがたいよな」「あら素直」「右も左もわからなかったのを育ててもらったんだ」「カップめん開けながらじゃ締まりませんよ」「るせえ」「もう2年になるんですね」「おい」「はい?」「おまえは売らねえからな」「…はい」