300字ss「空」 2018.06.02
〇ソラミミサマ〇
青空に白の逆三角。
山道を登った先、目に飛び込んできた光景に思わずぽかんと口が開く。せまい頂上に刺さった逆さまの巻貝は地面に埋まった部分をよけても見上げるほどに大きい。
「空耳様ってんだ」
立ち尽くす後ろからしゃがれ声が言う。爺さん曰く空の声をきく神様で、遠い場所の天気や嵐もわかったらしい。昔は旅する前、必ず山に参ったけど、口寄せの巫女が死んだ後は誰も近寄らなくなった。
ボロボロの板に今朝獲った魚をのせた爺さんは「神頼みしたとこで死ぬときゃ死ぬが」それでも旅の前には足が向くのだと節くれた手をあわせ目を閉じた。
それをまねてカミサマに願う。
(晴れますように)
明日は爺さんの舟で初めて水平線の向こうへ行く。